2022年10月、富⼠⼭の麓にある国際的なサーキット「富⼠スピードウェイ」(静岡県)の隣接地に富士スピードウェイホテル・富士モータースポーツミュージアムが誕⽣しました。敷地中央に地上9階建てのホテル・ミュージアム棟と、渡り廊下を挟んで地上2階建てのウェルネス棟を配置し、敷地内には3棟の独立した⽊造平屋建てのヴィラも備えています。
建物は周囲の森の中から立ち上がるように計画し、富士山麓の自然に寄り添うたたずまいを実現。敷地内に元から自生する豊かな既存樹はできる限り残し、原野から緩やかに起伏する森へと再生することで、ホテルの足元から周囲の自然へと連続する景観をつくり出しています。
富士山側にホテル、サーキット側にミュージアムを配置し、両者の境界をなくすことで、それぞれの空間が融合し、モータースポーツの魅力を身近に感じられる施設を目指しました。富士山とサーキットに挟まれたこの敷地で、ここでしか味わえない体験を実現するため、どのような工夫を施したのか。その考え方や設計手法をひもときます。
富士山とサーキット、ホテルとミュージアムをつなぐ
富士山を望む静けさと、サーキットを間近に感じる高揚感。その2つを一つの建築の中で味わえることが、この施設の大きな特徴です。建物は、富士山と富士スピードウェイを結ぶ軸線を手掛かりに計画しました。その軸線上の3階部分に、建物を貫くように設けたガレリア(通路)は、ホテルとミュージアムの2つの機能が混ざり合う大きなロビー空間です。
東側にはミュージアムショップを併設したカフェを設け、サーキットの最終コーナーを観覧できる場所としました。また、西側には富士山を望むホテルの共用部を配置し、ロビーやラウンジ、レストランなど、滞在中に過ごすさまざまな場所から富士山を感じられるように計画しました。
ホテル・ミュージアム棟では、下層階に開放的なミュージアム、上層階にホテルの客室を重ねています。大きな展示空間が求められるミュージアム部分では柱の間隔を広く取り、ホテル部分では客室の大きさに合わせて柱を細かく配置しました。
こうした上下階で異なる柱の配置に対応するため、建物の中間階に大きな梁を設け、下層階と上層階で異なる柱の配置をつなげる構造としました。これにより、一つの建物の中で異なる用途に適した空間を実現しています。
また、4階以上では、富士山側とサーキット側の双方に客室を設けたことで、宿泊客はそれぞれの過ごし方に合わせた眺望を選択することができます。
緑の回廊を再生し、到着への期待感を高める
敷地入口からホテルエントランスまでは、約400mのアプローチが続きます。訪れる人は、木々に包まれた道を進みながら、少しずつホテルへと近づいていきます。この施設では、到着までの時間も、これから始まる滞在への期待を高める体験となるように計画しました。
ヘリコプター発着地として使われていたこの敷地は、草木が生い茂る原野でした。富士山麓の風景になじむように、敷地内に自生した10mを超える高木は可能な限り残しました。また、新たに植える木も周辺の森と同じ樹種を選び、光が差し込む明るい森を目指して再生しています。
風除室を抜けると、大きなアトリウム空間が広がります。1・2階に併設された富士モータースポーツミュージアムに並ぶ名車を眺めながらエスカレーターで上階へ進むと、3階のガレリア・ロビーへとたどり着きます。
森の中を進み、ミュージアムを抜け、ホテルロビーへ向かう——。その一連の流れが、自然の落ち着きとモータースポーツの興奮を重ね合わせ、この場所ならではの空間と体験を生み出しています。
富士の自然とモータースポーツ文化を感じられる多彩な共用部
富士山とサーキット、ホテルとミュージアムをつなぐガレリア・ホテルロビーを抜けた先では、ダイニングやイベント、リラクゼーションなど、滞在を豊かにする共用部が広がります。
モータースポーツを想起させるインテリアを取り入れたレストランやバー、ボールルームでは、滞在中にもサーキットに隣接するホテルならではの雰囲気を感じさせます。温泉やスパ、ジム、プールなどを備えたウェルネス棟とあわせて、さまざまな滞在スタイルに応える施設となっています。
富士山麓の豊かな井戸水を、プールだけでなく飲用や設備の給水にも活用し、この土地の自然の恵みをホテルでの滞在に生かしています。
富士山麓の自然に包まれる静けさと、サーキットを間近に感じる高揚感。その2つが重なり合うことで、この場所でしか味わえない滞在体験を生み出しています。