長崎の土地の記憶を編み込んだ「陸の玄関口」

#24 JR長崎駅ビル

JR長崎駅ビルは、西九州新幹線開業を契機に2023年に完成した、商業・オフィス・ホテルからなる大型複合施設です。大航海時代に「海の玄関口」として栄えて以来、国際観光都市として多彩な文化を育んできた長崎の地にふさわしい駅ビルを目指しました。

建築用レンガがいち早く導入された地であり、多くのレンガ建築が現存する長崎らしさを手掛かりに、外装はレンガや金属パネルを用いた重厚な低層と、白を基調とした軽やかな高層で構成。特長のある遠景と近景の組み合わせは、どちらから見ても長崎駅前の「顔」となる風景を生み出しています。

各階に広場やテラスを施し、訪れた人々が移動の途中でひと息つける憩いの場を点在させています。外構では、かつての線路跡に再びレールを敷設して旧駅舎の記憶を継承し、長崎自生の木々を建物全体に配して、自然豊かな街の生態系保全にも寄与しました。

交通ロータリー、ペデストリアンデッキ付け替えなどの行政工事や既存駅ビルの改装工事が並行して進められる中、大林組は新駅ビルと多目的駅前広場(かもめ広場)の設計施工を担当した

さまざまな長崎の土着的要素を踏まえて計画した空間と、人々のにぎわいが重なって実現した新たな「陸の玄関口」。ここでは、そんな長崎を全面に感じる駅ビルの設計手法をご紹介します。

長崎駅前の新しい顔となる外観。レンガ・金属パネルを基調として重厚な低層(6階)の商業施設・オフィス(手前)。白を基調とした高層部(13階)は、ホテルの機能を有する(右奥)

街並みとにぎわいをつなぐ

JR長崎駅ビルが立つのは、大規模な再開発エリアと昔からの市街地の結節点です。駅前広場側には低層の商業施設・オフィスを据え、そこからセットバックしてホテルの高層部を重ねることで、周囲のスケール差を緩やかにつなぐ構成としました。

また、JRや市電、バス、タクシーが行き交う交通結節点だからこそ、建物単体で完結せず、駅と街、建物内の動線が自然に連続することを目指しました。ペデストリアンデッキとの接続に加えて複数の連絡通路を整備し、さらに人々のよりどころになる屋上広場を設けたことで、人の流れとにぎわいを立体的に重ね、駅周辺の回遊性向上に寄与しています。

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和華蘭文化を多様な素材で表現

北西側のメインエントランスでは、長崎らしいステンドグラスが人々を出迎える

鎖国時代においても、日本で唯一海外へと港が開かれ、さまざまな人や文化が行き交った長崎。和華蘭(わからん)とは、日本の「和」、中国の「華」、オランダの「蘭」が交ざり合った、長崎が独自に育んできた文化です。その和華蘭文化をひもとき、建物の随所で素材として用いることで、この地の歴史に根差した新たなランドマークとなることを目指しました。

  • 長崎の街に現存する多くのレンガ建築と調和するレンガ列柱
  • 港の造船所や洋館を思わせる木調の軒天井
  • 特注で製作した「定礎」レンガ
  • 洋館や教会建築に着想を得たステンドグラス
  • クルーザーや海鳥を思わせるホテル外装
和華蘭文化のさまざまな要素の組み合わせで構成されたメインエントランス

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本物のレンガを積み上げる

長崎の文化の象徴ともいえるレンガと、製鉄・造船から要素抽出した鉄を用いた商業施設の外装は、駅周辺の新たな「顔」をつくり出す

長崎とゆかりが深いレンガ。タイル貼りでは出せない、レンガそのものの素材の風合いを駅前空間に醸し出すために、本物のレンガの使用を選択しました。駅ビルという公共性の高い建物において、手積みレンガを採用して安全に成立させるため、商業施設では他に例を見ない鉄骨造×レンガ中空積み工法を採用しています。

駅前広場側に連なるのは、全長130m×高さ20mのレンガ列柱です。地震時の揺れ方が異なる鉄骨造の建物とレンガを一体化すると大きな力が生じてしまうため、レンガ列柱を1.2mごとに分割し、建物の揺れに追従できるようにしました。

高さ1.2mごとに荷重受け金物で支持し、小さな外装の集合として形成
  • 鉄骨と一体化すると、地震による変形で大きな力が生じてしまう
  • 揺れを吸収するために弾性目地を設けて分割し、変形追従させる
レンガ柱の平面詳細図。引き金物で固定することで、レンガが倒れることを防いでいる
  • サンプル確認
  • 検査
施工過程。一つひとつ手作業で丁寧にレンガを積み上げた
設計から施工まで、レンガのメーカーを含む専門家チームと協働して実現させた

レンガが持つ焼きむらや質感、風合いの変化が表情となり、年月とともに街の景色へ馴染んでいく――駅前という日常の場所で、手で触れられる距離に本物のレンガがあることが、長崎の玄関口の風景をより豊かにしていきます。

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開かれた屋上広場とテラス

緑があふれる、開放的な屋上広場。オフィス空間からも臨める生き生きとした緑はリラックス効果を生み、同時に高層階と低層階をつなげる役割を果たす

長崎市民や観光客など、駅に訪れるさまざまな人がそれぞれのペースで過ごせるよう、各階に大小さまざまな広場やテラスを点在させました。商業施設には誰でも立ち寄れるテラスや屋上広場を設け、買い物や乗り換えの合間に立ち寄れる憩いの場所をつくり出しています。

オフィスやホテルでは、それぞれの用途に合わせたテラスを配置し、働く人や滞在する人の時間の質を高めます。

広場をはじめ、建物全体に設えたヒトツバタゴやシャリンバイ、トベラといった長崎自生の植栽は、建物内の心地よさを整えると同時に、地域の緑のネットワークにも寄与します。

  • 商業施設4階のテラスから新幹線ホームを臨む
  • テナントオフィス前の5階屋上広場では、緑に囲まれた新しい働き方も生まれる
  • ホテル7階のオールデイダイニングガーデン
  • ホテル12階テラスのオーシャンビュー

「かもめ広場」は、交流・にぎわいの空間として計画された、約1,000m2の半屋外広場です。有事に備えて街の防災拠点としての役割を担い、一方では重要無形民俗文化財にも指定されている伝統催事「長崎くんち」の庭先周りの会場にもなるなど、日常と特別なイベントの両方を支える、柔軟性の高い空間として機能しています。

膜屋根の下に広がる半屋外空間「かもめ広場」

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長崎の土地の記憶を継承する

旧駅舎跡地である駅前広場側には、かつての線路位置にレール鋼を舗装した
かもめ広場ではかつての線路上に石舗装を施し、「長崎と上海を結んでいた日華連絡船(上海航路)の長崎港駅へとつながる長崎臨港線跡である」と刻んだ

かもめ広場や北側の外構には、かつて長崎駅から長崎港駅(現在は廃駅)へと続いていた線路跡の記憶をデザインモチーフとして展開しました。線路の方向に連動するように、舗装は建物の軸線に対して斜めに構成。長崎らしい石畳の風景を思わせ、駅前一帯に統一感をもたらしました。

そしてこのモチーフは、敷地を越えて北側に隣接する長崎市の広場へと続き、駅前の新しい風景は街へとつながっていきます。

また、坂が多いことでも知られる長崎の特徴を、建物内外のサインのデザインに取り入れました。いたるところに散りばめた案内表示は、長崎の坂の平均傾斜と同じ角度でカドを切り取ったものです。

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異国情緒を感じさせる、ライトアップされたレンガ列柱
長崎駅へ人々を誘うレンガ列柱のアプローチ

街並みをつなぎ、文化を織り込み、日常の中に本物を残す。長崎駅前に、新しいにぎわいの起点となる風景をつくり出しました。

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