プロジェクト最前線

横浜・GREEN×EXPO 2027のテーマ館、積層し連なる樹木のような大規模建築をつくる

旧上瀬谷通信施設公園(仮称)パークセンター1新築工事

2026. 06. 19

2027年3月19日から、神奈川県横浜市で2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)が開催される。大林組は会場の基盤整備とともに、展示館「大林組 モリソラミライ」の出展・建設や会場シンボルとなるテーマ館の建設を手掛ける。中でもテーマ館のアトリウム棟では、日本の伝統工法・木組みを応用した積層により、樹木や生き物のような建物の建設に挑んでいる。

従来の常識を覆す木造建築のアトリウム棟

アトリウム棟は、命の根源である植物の本来の姿を最新の映像・展示技術で紹介する施設として使用される(提供:GREEN×EXPO協会)
テーマ館はCLT造のアトリウム棟とRC造の管理棟から成る

国際園芸博覧会(園芸博)は、園芸文化の普及や花と緑のあふれる暮らしへの貢献を目的とした博覧会だ。規模や開催期間によってランク分けされる園芸博の中で、GREEN×EXPO 2027は最上位のA1クラス。国内で同クラスの園芸博が開催されるのは、1990年に大阪市で開催された国際花と緑の博覧会(花の万博)以来、37年ぶりとなる。

会場は米軍から横浜市に返還された旧上瀬谷通信施設の土地の一部を利用しており、東京ドーム21個分に及ぶ広大な敷地内では現在、急ピッチで工事が進められている。

テーマ館はアトリウム棟と管理棟で構成される。管理棟は、従来型の鉄筋コンクリート(RC)造で、鉄筋を組み、型枠にコンクリートを流し込んで固めるつくりだ。これに対してアトリウム棟は、木の板を貼り合わせたCLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー:直交集成材)を躯体に用いた木造で、部材を自由な角度で井桁状に組み上げる非常に特徴的な工法を採用している。

アトリウム棟の内観イメージ(提供:GREEN×EXPO協会)

大林組上瀬谷PC1JV工事事務所 所長 中村秀太郎

「テーマ館のデザイン監修を務めたのは、GREEN×EXPO 2027のマスターアーキテクトも務める建築家の隈研吾氏です。『地形や緑と調和する樹木のような建物』というコンセプトの下、生き物のような建物を目指して植物の形態と機能の合理性を建物で表現しています」と話すのは、大林組上瀬谷PC1JV工事事務所所長の中村だ。

「アトリウム棟の図面を見てもらえれば一目瞭然ですが、建設の常識を覆すような建物形状です。CLTを一般的な床や壁としてだけではなく梁としても使用し、日本の伝統工法 ・木組みを応用して積層しています。CLTを梁として使用した建物で、ここまで大規模なものは前例がありません」と説明する。

グループ会社のサイプレス・スナダヤが製造したCLTを採用。上材と下材同士をはめ合わせる接合部の許容誤差はわずか1mm

突破口はBIMデータの精緻化

大林組建築事業部生産設計第二部係長 荒川裕彦

前例のないプロジェクトに、当事者たちの当惑は小さくなかった。生産設計の設計長を務める荒川も「設計者が描いた設計図を現場の職人が実際に施工できるレベルまで施工図に落とし込み、具体化するのが生産設計の役割です。それだけに責任は大きくなります」と話す。

アトリウム棟では、建物の構成や配置の基準となる平面上の線がS字のように自由角度を描いていて、これまでの経験やノウハウが通用しない。この建物を造り上げていくイメージが湧かず、大きな不安を抱いた。

突破口になったのは、BIMデータの精度を上げたことだ。「一般的な建物の場合、この壁の裏側がどうなっているか、そこに立って上下左右を見渡したとすると何がどう見えるか、ある程度想像できます。本プロジェクトの場合、そんな想像さえ容易ではありません」と荒川。平面図を基に一からBIMデータを描き起こした上で精度を徹底的に高め、BIMを見れば実物がイメージできるという状態に近づけた。

アトリウム棟の施工工程シミュレーション図(動画再生時間:44秒)

建物として必要な性能を確保するための"基準づくり"に一定の時間を要したことも、本プロジェクトならではの経験だったという。例えば、複雑な建物形状に合わせ、くの字に曲げたサッシには強度や止水性、断熱性、見栄えなど、建物としての基本性能をどこまで確保するかといった基準が必要になる。従来型の建物であれば、似たような事例の基準を参照しながら決めていけるが、本プロジェクトではゼロから関係者と協議し、基準を一つひとつ固めていく必要があった。

管理棟(上)のように通常は直線で構成される壁面の線が、アトリウム棟(下)では自由角度を描いている(写真左が北 2025年10月撮影)

転機となった実寸大モックアップと逆転の発想

大林組上瀬谷PC1JV工事事務所工事課長 蛸川雅之
実寸大のモックアップは作図から解体まで約5カ月という急ピッチで実施 
当初は特殊シートによる膜屋根を想定していたが、検討を経て木の平屋根に変更した 

この前例のないプロジェクトにあたっては、着工前から余裕を持った入念な準備を進めてきた。本プロジェクトのここまでの転換点として、中村と荒川の二人が口をそろえるのが、着工3カ月前に茨城県で行ったモックアップの試作だ。

建築班を束ねる工事課長 蛸川によると、建物の一部を実寸大で試作したことで、プロジェクト全体に影響を及ぼす大きな突破口が生まれたという。

「この建物の精度管理に許された誤差はわずか1mmです。通常は基礎となる下材を流動性の高い補強材(グラウト)で固め、その上に上材を配置するのですが、下材を図面上正確な位置に配置し、上材も精度を満たしているはずなのに何度試しても上下の部材がはまらない。そこでたどり着いたのが、下材をある程度動かせる状態で、上材をはめてから下材をグラウトで固めるという手順です。これであれば施工が可能でした」と蛸川は語る。逆転の発想から生まれた手順が、現在の順調な進捗を支えている。

また、このモックアップが意匠の仕様変更につながったケースもある。当初は、アトリウム棟の大部分を布のように薄い特殊シートで覆う膜屋根にする計画だったが、CLTに鉄板防水を施すには、湿度などで伸縮する木材と伸縮しない金属を正確につなぐ必要があり、施工難度が高くなる。さらに、膜屋根は止水性など品質面での懸念もあった。関係者全員がこうした課題を認識する中、モックアップを試作したことで、木の良さをより生かせて品質面でも優位な平屋根への変更が決まった。

組み合わせたCLTをクレーンで運搬。200tクレーン3台で下から順に組み上げる
  • 1枚最大約4tのCLT2枚を、現場に6カ所設けた地組みヤードで1枚に組み合わせる

  • CLT同士をはめ合わせる接合部分。誤差がないか目視で確認する

3Dプリンターで建物を可視化する

アトリウム棟は、南北の長さが100mを超え、高さも12mと団地であれば4階建て相当でありながら、実は1階建ての平屋造り。しかし、その建築で使用する仮設材の重量が約770tと、大規模物件に匹敵することも本プロジェクトの特異性を物語っている。複雑かつ唯一無二の構造をした建物の可視化に大いに役立っているのが3Dプリンターの活用である。「複雑な建物の全体あるいは細部がどうなっているかを立体的に把握することは、施工方法や手順を考える上で非常に重要です。3Dプリンターは、私たちが構造を理解して共通認識を持つためのキーアイテムになっています。現場巡視でも重宝しますし、導入コストをはるかに上回る価値を提供してくれていますね」と蛸川。

3Dプリンターを使って製作したアトリウム棟と管理棟の模型。さまざまな縮尺があり、施工手順を確認する際などに活用する

現場関係者全員の力を生かす

協力会社が計画の段階から参画していることも、本プロジェクトの順調な進捗の要因の一つに数えられる。「従来は私たちゼネコンの施工管理者が全ての計画を立て、材料を発注し、その指示を受けて協力会社の職人が現場で動くのが一般的でした。しかし本プロジェクトでは実際に現場で手を動かす協力会社に各専門工事を一括で任せ、とびであれば足場計画から足場材の発注、荷受け、設置までをやってもらっています」と中村。『自分のことは自分でやる』という意識が、この現場では非常にうまくかみ合っているように感じられる。

足場に覆われたアトリウム棟。2カ所設置された仮設やぐら(写真中央と奥)からは、三次元測量によって建て方精度を確認することができる

GREEN×EXPO 2027には世界70カ国以上が参加する予定で、想定来場者数は1500万人を見込む。世界から注目が集まる建物を手掛けていることに対し、蛸川と荒川の二人は何を思うのか。蛸川は「これまでに関わってきたのは、工場敷地内の施設や事務所ビルなど、竣工後は関係者しか使用できない建物が多く、一般の方が使用できるこんなにも注目度の高い建物は初めてです。このプロジェクトをやり遂げたとしたら大きなやりがいを感じると思います。難しい仕事には違いありませんが、かといってこれまでのノウハウが全く生かせないということもない。自分たちの経験と仲間を信じて、最後まで気を抜かずに頑張ります」と力強く話した。

大阪の建設現場で使った木造事務所の部材をリユース。観葉植物やBGMが導入され、心地良い職場環境が整えられている

荒川も、今後の会社人生でも経験するか分からないほど難しい建物を担当し、建物の形状が複雑であればあるほど、生産設計の役割が重要であることを改めて確認できた。「こんなに多くの関係者がいるプロジェクトに関わったことも初めてなので、大林組の社員としての責任や自覚を強く感じることができています。自分のキャリアにとって転換点であり、大きな財産です」と胸を張る。

まるで許容誤差1mmのCLTがぴったりはまるかのように、本プロジェクトに関わる全ての要素がうまくかみ合っている。そんな一体感を強く感じられる現場を導く中村は2026 年12 月の竣工を見据えて語った。

「GREEN×EXPO 2027の会場には今、工事関係の団体が70くらい入っていて、今後その数はさらに増えていきます。今のところ、工事の進捗は私たちがリードしています。テーマ館と大林組展示館のいずれの工事でも、竣工まで無事故無災害で会場全体をリードし続けて『さすが大林組は違う』ということを示していきたいですね。私たちが造っているのは、来場者に楽しんでもらうための施設。そのような施設は歯を食いしばりながら造るものではないはずです。この誰も経験したことがないものづくりを、私たち自身、大いに楽しんでいきます」。

(取材2026年3月)

工事概要

名称 旧上瀬谷通信施設公園(仮称)パークセンター1新築工事
場所 横浜市
発注 横浜市
設計 梓設計、金子設計
概要 木造一部RC造・S造、1F、延3,758m²
工期 2025年2月~2026年12月
施工 大林組、大洋建設、京急建設

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