地球の土・惑星の土

藤井一至(福島国際研究教育機構 土壌ホメオスタシス研究ユニット ユニットリーダー)

植物は重力を感知する

惑星の重力の違いは土壌生成のプロセスに大きく影響する。火星、月の重力は、地球の重力よりも低い。重力加速度gが増加した場合、コケの仮根(※18)が変化することが報告されている(※19)。このデータから、重力加速度が大きいほど、コケは地上部の長さに対して仮根を長く深く伸ばすことが確認できる。植物根の先端(根冠)には重力を感知して下方に伸びる器官(アミロプラスト)が存在するが、コケの仮根でも重力が変化することで地上部と地下部の資源配分が変化したと考えられる。これは地球の重力加速度1~10倍(1~10g)の範囲の話で重力加速度1g以下範囲への外挿(※20)には注意が必要だが、月や火星では地下部への配分が低下する可能性がある点は重要である。

重力加速度(1g)における地下部最大長/地上部最大長を1とした時の各重力レベルにおける相対比率
Hanba et al. (2025)の写真を基に解析した。

同じ粒径の土に同じ水量を添加した場合、火星、月の重力は地球よりも低く、水を下へと引っ張る力は地球よりも弱いことを意味する。重力に反して毛管上昇(※21)によって水を持ち上げる力は重力に反比例する(ポアズイユの法則)。重力の低い月、火星では毛管上昇がより大きく同一深度では地球よりも水が多い状態になることが想定され、根が浅くても給水できる可能性はある。同時に、①地衣類、コケ植物などの風化を担う植物の根張りが浅くなる、②重力の低さから水の下方浸透が緩慢になるという理由から、深度方向への土壌の発達は地球よりも月や火星で遅いと考えられる。

※18 根を持たないコケ植物やシダ植物に見られる「根のような」器官。植物の体を支え、水分や養分を吸収する。

※19 Hanba, Y. T., Do, T. H., Takemura, K., Kitajima, S., Vyacheslavova, A., Takata, M., Fujita, T. (2025). First contact with greater gravity: Moss plants adapted via enhanced photosynthesis mediated by AP2/ERF transcription factors. Science Advances, 11(29), eado8664.

※20 既知のデータに基づいて、その範囲外の値を予測・推定すること

※21 液中に立てた毛細管の毛管吸引圧により液が管内を上昇する現象

土壌の生成を早送りするには

地球46億年を俯瞰すると、40億年前に生命が誕生し、30億年前に酸素を生み出す光合成を行う生物(シアノバクテリアの祖先)が誕生した。海中の鉄イオンが酸化鉄(縞状鉄鉱床)へと酸化された後に大気中に酸素がいきわたり、7億年前にはオゾン層が形成された。宇宙線が遮断されることで陸地が安全になり、5億年前にコケ植物や地衣類が岩石砂漠に上陸してその遺体が土壌となった。地球に土壌が誕生するまで41億年かかったことになる(※22)。土壌が発達した後には、根を持つシダ植物が登場し、イチョウなどの裸子植物、針葉樹、被子植物が登場していく中で土壌が深く発達した。

5億年にわたる陸域生態系・土壌の発達過程

ポドゾル:針葉樹林帯に分布する酸性土壌

月や火星におけるテラフォーミングで、地球のように土ができるまで41億年も待つわけにはいかない。植物工場への期待も大きいが、土壌が必要になる。造岩鉱物から粘土鉱物を生み出す風化プロセスはアルミノケイ酸塩の場合、酸性物質を必要とする(※23)。酸性物質は塩酸、炭酸などが考えられる。しかし、現状では1kgの物資を輸送するのに1億円かかる中で、重たい化学物質を運搬することは現実的ではない。

火星、月のレゴリスは中性から弱アルカリ性であり、自然状態での風化速度は遅い。大量に土壌を生み出すためには生物の働きが不可欠であり、コケは有力である。コケは地衣類とともに地球の地上で初期に土壌を生成した生物の一つだ。根の張れない土壌のない環境でも生育できる。

※22 藤井一至『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』(山と渓谷社〈ヤマケイ文庫〉、2022年)

※23 玄武岩の斜長石からスメクタイトができる反応:7NaAlSi3O8(斜長石)+ 6H+ + 20H2O →(イオン化)→ 3Na0.33Al2(Si3.67Al0.33)O10(OH)2(スメクタイト)+ 6Na+ + 10H4SiO4

テラフォーミングの実践

地球の土壌中、大さじスプーン一杯に細菌は1万種類、100億個も存在する。単一の微生物では分解過程は完結せず、多くの微生物の分業である。しかし、土壌微生物のうち、99%が難培養性である。培養しやすい微生物の組み合わせ、あるいはヘルパー微生物の共存によって培養可能なもの(例えば、10種類)を選抜した上でコケ植物遺体を分解し、腐植へと変換する必要がある。粘土がないレゴリスでは酸緩衝能(※24)が低い。分解産物である有機酸などによって徐々に酸性化すると微生物群集組成が酸性に強いグループへと変化する。この物理化学性の変化に対応できる宇宙飛行微生物の選別が必要になる。リンは火星レゴリスにも存在するが、窒素は化学肥料を用いない場合、大気中の窒素と窒素固定微生物も不可欠である。

SF映画『The Martian(オデッセイ)』(2015年、NASAの研究者が監修)では、2035年の近未来を舞台に、火星に一人取り残された宇宙飛行士が仲間の残した凍結乾燥の排せつ物と火星の砂を混ぜてジャガイモを育てる。宇宙空間ではあらゆるものをリサイクルする超循環型社会が不可欠であり、排せつ物を利用した栽培は有力である(※25)。これは、数千年前、南米アマゾンの先住の人々が生活ごみを燃やした炭化物や排せつ物などを投入し続け、赤土を奇跡の土テラ・プレタ(Terra Preta)(※26)へと肥沃化した事例に近い(※27)。排せつ物自体は栄養分(窒素、リン)が濃厚なため、それに合わせた施用量(鉱物との混合比)の決定、作物側の品種改良も必要になる。水や栄養分が貴重な条件では、土壌を使わない水耕栽培、植物工場の優位性も高まる。

一方で、多くの人口を扶養できるように穀物・根菜類を生産する場合、やはり土壌の構築が必要になる。コケ栽培によって土壌を作る意味は、単なる養分・腐植供給ではなく鉱物風化促進(粘土生成)にある。粘土生成に時間がかかる場合、粘土に代わる素材を加えることも選択肢になる。水、空気(窒素、酸素、二酸化炭素)の確保が前提となる。

※24 酸が加えられた際に、溶液のpH変化を抑えて一定に保つ能力

※25 藤井一至『土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る』(講談社〈ブルーバックス〉、2024年)

※26 ポルトガル語で黒土の意

※27 Glaser, B., Birk, J. J. (2012). State of the scientific knowledge on properties and genesis of Anthropogenic Dark Earths in Central Amazonia (terra preta de Índio). Geochimica et Cosmochimica acta, 82, 39-51.

おわりに

テラフォーミングは依然として現実的な段階ではないが、他の惑星環境に関する知見の集積によって地球の土壌を客観視することが可能になるとともに、テラフォーミングにおいて必要となるもの(※28)が明確化され、地球の荒廃地ではその多くがすでに備わっていることも確認できる。これはテラフォーミングが地球から地球外惑星への技術移転だけでなく、地球の荒廃地の再構築にも活かせるという惑星間フィードバックを可能にすることを期待させてくれる。

※28 宇宙線に耐えるコケ植物、最低限の微生物群集(窒素固定微生物を含む)、窒素、酸素、二酸化炭素、水

藤井一至(福島国際研究教育機構 土壌ホメオスタシス研究ユニット ユニットリーダー)

1981年生。京都大学農学研究科博士課程修了。博士(農学)。日本学術振興会、森林研究・整備機構森林総合研究所等を経て現職。第1回日本生態学会奨励賞(鈴木賞)、第33回日本土壌肥料学会奨励賞、第15回日本農学進歩賞受賞。著書に『土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る』『土 地球最後のナゾ』『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』など。

この記事が掲載されている冊子

No.65「大地」

生命を育み、地球の豊かな自然環境を支える大地。私たちは日々、その恵みを受けて暮らしています。大地はどのように生まれたのでしょうか。また、地球以外の惑星に、大地は存在するのでしょうか。
本号では、人々の暮らしに根づいた世界各地の色彩豊かな大地の表情を紹介し、その成り立ちについてもひもときます。また、大林プロジェクトでは、火星のクレーターに大地をつくり、生命を育む環境を創出するという宇宙規模の誌上構想に挑戦しました。大地が育む自然の豊かさ、尊さを見つめ直し、未来の地球環境を考えます。
(2026年発行)

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